3Dプリントの坂でミニカーが腹を擦る条件|曲率半径の早見表と、計算しなかった場所で出た不具合
3Dプリンタでミニカー用の坂を作ると、たいてい最初は腹を擦ります。
勾配を緩くしても直りません。腹擦りは勾配ではなく、坂の「曲率」だけで決まるからです。
この記事は、トミカ用の地下駐車場を設計する過程で、必要な曲率半径を計算で出し、本体を刷る前にクーポンで検証した記録です。
結論:必要なクレスト半径の早見表
ホイールベース(WB)と最低地上高(GC)から、腹を擦らないために必要な凸部の半径を引けます。単位はmmです。
| ホイールベース | GC 1.0mm | GC 1.5mm | GC 2.0mm | GC 3.0mm |
|---|---|---|---|---|
| 40mm | 200.5 | 134.1 | 101.0 | 68.2 |
| 44mm | 242.5 | 162.1 | 122.0 | 82.2 |
| 48mm | 288.5 | 192.8 | 145.0 | 97.5 |
手持ちのミニカーを実測したところ、ホイールベース40〜48mm・最低地上高1〜3mmでした。最悪の組み合わせ(WB48・GC1.0)で R≥288.5mm が必要という結果です。
最初の設計では半径150mmにしていました。全く足りていませんでした。
なぜ勾配ではなく曲率なのか
坂そのものが急でも、それが直線なら腹は擦りません。車体も一緒に傾くだけだからです。
問題が起きるのは坂の頂点、つまり凸に曲がっている部分です。前輪と後輪が凸の両側に乗ると、車体の中央は路面から浮き上がる方向に持ち上げられます。この持ち上がり量が最低地上高を超えた瞬間、腹が着きます。
計算式
半径Rの凸円弧に、ホイールベースWBの車がまたがったときの持ち上がり量δは、
δ = R − √(R² − (WB/2)²)
WBがRに対して十分小さければ、次の近似でも実用上は足ります。
δ ≒ WB² / (8R)
ここに勾配もランプの長さも出てきません。効くのは半径とホイールベースだけです。「坂を緩くしたのに擦る」という現象は、これで説明がつきます。緩くしても頂点の曲がり方がきついままなら、結果は変わりません。
凸と凹を分けると設計が通る
坂には2種類の曲がりがあります。
- クレスト(凸)=坂の始まりと頂上。腹が持ち上がる。大きな半径が要る
- サグ(凹)=坂の終わり。腹はむしろ路面から離れる。効くのは前後バンパーの先端だけ
当初は両方を同じ半径にしていました。必要な300mmを両方に適用すると、ランプの水平距離が407mmになり、プリンタのベッド(240mm角)に収まりません。
そこで分けました。
| 役割 | 採用値 | |
|---|---|---|
| クレスト(凸) | 腹擦りを決める | 300mm |
| サグ(凹) | バンパー接触のみ | 150mm |
これで水平距離が328mmに収まりました。240mm角のベッドには依然として入りませんが、L字に折り返す平面配置と組み合わせることで、部品を分割せずに成立させています。
「効く場所にだけ大きな半径を使う」。制約が厳しいときは、全体を一律に良くしようとするより、どこが効いているかを切り分けるほうが解けます。
クーポンを設計した。そして刷らなかった
ランプ本体は水平距離328mm、印刷には長時間かかります。刷ってから擦ったと分かれば、設計をやり直して刷り直しです。
しかし腹擦りは曲率だけで決まるのだから、正しい曲率のこぶさえあれば検証できます。ランプ全体は要りません。そう考えて、4レーンの試験片を設計しました。
| レーン | 種類 | 半径 | 中央の高低差 | WB48での持ち上がり |
|---|---|---|---|---|
| 1 | 凸 | 200mm | 3.09mm | 1.45mm |
| 2 | 凸 | 300mm(採用値) | 2.05mm | 0.96mm |
| 3 | 凸 | 400mm | 1.53mm | 0.72mm |
| 4 | 凹 | 150mm | 4.14mm(くぼみ) | バンパー接触を見る |
外形90×159.4mm、体積62.9cm³。サポート不要、層厚0.2mm・インフィル15%で約1.5時間。本体を刷り直すコストに比べれば無視できるはずでした。
レーンの識別は数字ではなくピップ(●の数)にしました。小さな数字は積層痕に埋もれて読めなくなるためです。
そして、刷りませんでした。
スライサーにランプ本体を載せた画面を見ながら、こう思ったからです。
……これ、クーポン刷らなくてもよくない?
計算は合っています。凸300mmなら持ち上がりは0.96mm、いちばん低い車の地上高でも1.0mm。数字の上では通っている。だったらクーポンに1.5時間使うより、本体を刷ってそのまま車を載せたほうが早いのでは——と。
こういうとき、頭の中には都合よく理屈が並びます。時間の節約。フィラメントの節約。どうせ計算は合っている。前のバージョンで痛い目を見て決めたはずの「クーポン先行」は、その並んだ理屈に、特に抵抗もなく負けました。
合格すれば、この判断は「正しい省略」になります。落ちれば「またやった」になります。同じ判断が、結果によって呼び名を変えるだけです。
いま刷っている最中なので、どちらになるかはまだ分かりません。
判定のしかた
クーポンでも本体のランプでも、確かめ方は同じです。こぶに車を前後にまたがらせて置きます。
- 腹が着くと車輪が浮いて、こぶを支点にシーソーする。カタカタ揺れたら不合格
- 4輪接地のままなら合格。迷ったら車輪を指で回して、空回りするか見る
- いちばん車高の低い車と、いちばんホイールベースの長い車で必ず試す
目視で「擦ってなさそう」と判断しないことが大事です。シーソーするかどうかは指1本で確実に分かります。
印刷結果:腹は擦らなかった。別の症状が出た
刷り上がったランプに車を載せました。
腹擦りは起きませんでした。 こぶをまたがせてもシーソーせず、4輪接地のまま。クレスト半径300mmという判断は正しかったことになります。必要値288.5mmに対して300mmを選んだ計算が、そのまま当たりました。
ただし、坂の下のカーブで1輪だけ浮きました。
まず印刷の反りを疑う
大きく平たい部品なので、冷却収縮で反っている可能性があります。設計を疑う前にそちらを潰します。
ランプ単体を平らな机に置いてみました。ガタつきません。 反りではない。つまり設計由来です。
原因は、計算していなかったところにあった
このランプはL字型で、途中に90度のコーナーがあります。そのコーナーで、内側と外側は同じ高さを違う距離で上ります。
| 半径 | 弧長 | 勾配 | |
|---|---|---|---|
| 内側 | 40mm | 62.8mm | 45.3° |
| 中心線 | 70mm | 110.0mm | 30.0°(設計基準) |
| 外側 | 100mm | 157.1mm | 22.0° |
高さの変化はどこも63.5mmで同じです。しかし進む距離が2.5倍違うので、勾配が45.3度と22.0度になります。
内外で23度も勾配が違う面は、平面ではありません。ねじれています。 そこに剛体の4輪を置けば、1輪が浮きます。幾何的な必然で、避けようがありません。
そして後から気づいたのですが、この数字は自分の設計メモに書いてありました。
コーナー内側半径40mm/外側100mm。内側縁の勾配は約45°になるが、走行の基準は中心線勾配30°
「内側は45度になる」と書いておきながら、それが何を引き起こすかは考えていませんでした。 数値としては認識していて、意味としては見落としていた。
計算した場所は当たり、計算しなかった場所で出た
この記事の前半は、縦断方向の曲率をどう決めるかという話でした。必要半径を式で出し、表を作り、凸と凹を分けてベッドに収めた。その部分は全部当たっています。
実際に出たのは、平面のカーブと縦断の勾配が重なったときに何が起きるかという、一度も計算していない場所でした。
腹擦りは「縦断だけ」で決まります。だから縦断だけを見ていれば足りるはずでした。足りなかったのは、腹擦り以外の症状が存在するという想定のほうです。
何をどう計算するかより、何を計算すべきかを間違えるほうが怖い。 計算そのものが正しくても、対象を外していれば結果は守られません。
実用上は問題なかった
1輪浮きはしますが、車は普通に転がって降りてきます。 遊ぶぶんには支障がありません。
直すなら、実道路と同じように片勾配(バンク)をつけてコーナーの外側を持ち上げるか、コーナー部の勾配を緩めて、高さを前後の直線部で稼ぐことになります。ただし全長328mmという制約があるので、緩めた分をどこかで吸収する再計算が必要です。
今回は直していません。設計基準を満たさないことと、使えないことは別だからです。
副産物:位置決めしていない部品は、そもそも診断できない
原因を追う過程で、別の問題に気づきました。
このランプは床に対して固定されていませんでした。 上端はデッキ裏に板を差し込んで浮き上がりを止めているだけ、下端は単純な突き合わせ。横方向にも回転方向にも自由です。
つまり置くたびに位置と傾きが変わります。 その状態で「1輪浮く」と言っても、次に置いたときは違う輪が浮くかもしれない。再現性のない現象は、原因を特定できません。
そこで位置決め用のペグを2本追加しました。前のバージョンで爪つきのスナップフィットが遊んでいる最中に折れているので、保持はせず、位置を決めるだけにしています。2点あれば前後左右と回転が決まり、残りは重力任せで足ります。
不具合を測る前に、測れる状態を作る。 当たり前ですが、抜けていました。
設計環境
- プリンタ:Bambu Lab A1(ベッド240mm角)
- 材料:PLA
- 層厚0.2mm・インフィル15%・サポートなし・ブリムあり
- 対象車両:ホイールベース40〜48mm・最低地上高1〜3mm(実測)
ミニカーの寸法は製品ごとに幅があります。手持ちの中でいちばん条件の厳しい個体を実測して、そこから設計してください。平均値で設計すると、半分の車が擦ります。
本記事で扱う互換部品は個人が製作した非公式のものであり、公式製品・許諾製品ではありません。記事中の製品名・会社名は各社の商標または登録商標です。